東京大学血管外科

留学体験レポート 番外編

2019年6月1日〜9日まで、高山と花田がエチオピアの首都アディスアベバに滞在し、アディスアベバ大学附属病院(Black Lion Hospital)血管外科チームの一員として現地の血管外科診療に携わって参りました。

写真1. 左より花田医師、ウィスコンシン州立大学血管外科レジデントDr. Shruthi、高山医師、アディスアベバ大学血管外科フェローDr. Henok

本派遣は、高山が2017年まで勤務していたウィスコンシン州立大学血管外科の教授であるDr. Girma Teferaより要請されて実現しました。エチオピア出身のGirma教授が母国の血管外科診療レベルを向上させるために、ウィスコンシン州立大学からアディスアベバ大学に定期的に血管外科指導医を派遣しており、今回高山が派遣の要請を受けたため当科大学院生の花田を帯同して訪問してきました。

Black Lion Hospitalには常勤の血管外科指導医が1名と血管外科フェローが1名しか存在せず、この2名で全国から集まる血管外科患者を一手に引き受けているのが現状です。ここに我々2名と、すでにウィスコンシンより派遣されていた血管外科レジデント1名が加わり、1週間の滞在期間中に計3件の血管外科手術と2件の血管造影、丸1日の外来業務をチームの一員としてサポートしてきました。日本とは異なる社会情勢、人種構成、生活習慣の中で血管外科疾患も多くの点で異なっており、交通事故や銃創などによる血管外傷、凝固異常症による血栓塞栓症、とりわけ日本ではきわめてまれな頸動脈小体腫瘍などの罹患者が多く、一方で平均寿命が短いためか動脈硬化性の大動脈瘤などはあまり見かけませんでした。

写真2. バイパス手術に参加する花田医師

血管外科手術に用いる物資は全てが貴重品で、人工血管や血管吻合糸などは全てこれまで派遣されてきた医師たちが持ち込んだ物品を大切に備蓄して必要最小限だけ節約して使っており、これが発展途上国の現実かと実感しました。

今回の訪問にあたり、当科で普段よりoff-the-job trainingのために使用している吻合練習セットを持参したところ非常に喜ばれ、我々が帰国した翌週にレジデントを対象とした吻合実習が実施され盛況だったとのことです。

写真3. Dr. Henokに植木鉢を用いた深部吻合シミュレーターを体験してもらいました。左はエチオピア唯一の血管外科指導医Dr. Nebyou
写真4. 我々の持参した器材を用いて、外科レジデントを対象とした吻合トレーニングが実施されました

エチオピアはコーヒー発祥の地と言われているだけあり、日常的にコーヒーが愛飲されていました。伝統的なコーヒーセレモニーセットがカテ室にまで常備されていたことに文化の奥の深さを感じました。

写真5. 伝統的コーヒーセレモニーを楽しみました
写真6. コーヒーセレモニーセットがカテ室にも常備されていました

医療ボランティア目的で訪問したという縁で、在エチオピア日本国大使館医務官である松岡慈子先生とお知り合いになることができ、松永大介エチオピア特命全権大使とエチオピア政府高官の方々との昼食会に思いがけず同席を許していただけたことも、忘れ得ぬ貴重な体験となりました。

写真7. 松岡慈子医務官、松永大介大使、エチオピア政府高官の方々と昼食と共にしました

短い期間の滞在でしたが、微力ながらエチオピアの血管外科診療に貢献でき感謝してもらえたことのみならず、現地に行かなければ決して体験できない様々な貴重な経験ができました。そして、我が国の恵まれた医療事情を改めて実感することもできた、大変有意義な1週間でした。