東京大学血管外科

内臓動脈瘤について

内臓動脈瘤とは

内臓動脈瘤という珍しい瘤があります。大動脈から分岐して腹部臓器にいく血管にできる瘤です。脾動脈、肝動脈、腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、膵十二指腸動脈などの瘤があります。これらはほとんどの場合、検診などのCTやエコーで発見されます。瘤というからには破裂する危険性があります。どのくらいの危険があるのでしょうか。

大動脈瘤などでは、サイズが大きいほど危険とされています。しかし内臓動脈瘤では大きさはあまり関係がないといわれています。“見つかったらすぐに治療”、と考えて差し支えありません。(腎動脈瘤は比較的破裂しにくいとはいわれています)

ガイドラインでは

2019年にSociety for Vascular Surgeryからガイドラインがでました (Chaer FA, et al. J Vasc Surg 2020;72:3S-39S)。通常の瘤(壁構造が保たれているもの:真性瘤といいます)の手術適応になる瘤径のおおよその目安が示されています。(表1)

表1. 動脈瘤の部位と手術適応の瘤径
瘤の部位瘤径
腎動脈瘤> 3cm(妊婦はサイズに関係なく)
脾動脈瘤> 3cm(妊婦はサイズに関係なく)
腹腔動脈瘤> 2cm
胃・胃大網動脈瘤サイズ関係なく
肝動脈瘤> 2cm or 0.5cm/yearの拡張
上腸間膜動脈瘤経過観察
空腸・回腸・結腸動脈瘤> 2cm
胃十二指腸・膵十二指腸動脈瘤サイズ関係なく

これはあくまでも目安です。瘤には仮性瘤(壁構造が保たれていないもの)や、急速に増大しているもの、また破裂や感染を伴ったものもあり、それらは径に関係なく手術適応になることが多いです。

内臓動脈瘤の治療

第一選択は、塞栓術などの血管内治療です。コイル塞栓といって瘤を含む血管を詰めて血流をなくしてしまいます。しかし塞栓することでその先の臓器の虚血症状が出る場合にはバイパスなどが必要です。そのような場合は開腹手術となります(図1)

内臓動脈瘤の治療(図1)
(図1)

3Dモデルによるシミュレーション

珍しい瘤であり、できる場所も様々ですから、開腹手術に際しては周囲の臓器との関係を把握することが重要です。CTなどで術前にイメージして手術に臨みますが、開けてみたら思っていたのと違っていた、ということは往々にしてありました。当科では膵臓や肝臓、重要血管が近くにある症例では、3Dプリンターで模型を作成して術者らが手に取って関係性を確認しています(図2)。これによってイメージしやすく手術に安心して臨めるというアンケート結果がでています。

3Dモデルによるシミュレーション(図2)
(図2)3Dプリンターで作成した瘤と周囲臓器のモデル

膵十二指腸動脈瘤の奇妙な原因

膵十二指腸動脈瘤という、膵臓の周りの血管にできる瘤はユニークな特性があります。膵十二指腸動脈は、大動脈から出る腹腔動脈と上腸間膜動脈の両方から枝が伸びていてアーケードを形成しています(図3)。実はこの部位の瘤は高率で腹腔動脈の狭窄や閉塞があることが報告されています。腹腔動脈の根部は、もともと横隔膜弓状靭帯というのがあって、人によってはそれが発達して腹腔動脈を狭窄させていることがあります。これと瘤の発生に関係があるのでしょうか。

膵十二指腸動脈瘤の奇妙な原因(図3)
(図3)

そこに因果関係を求めるならば、腹腔動脈からの血流が減ることで反対の上腸間膜動脈からの血流が増えて、血行動態が大きく変わって瘤ができるのだ、という仮説が考えられます。しかし非常に珍しい病気なので、それを証明することは困難です。

そこで私たちは電気回路モデルを用いてシミュレーションをしました。すると、腹腔動脈の狭窄度が0から99%まで進むと、50%の時点で血流が反転し、その後元の流量の3倍まで増加したのです(図4)。この劇的な血流変化が瘤形成に関与したとしてもおかしくはありません。このシミュレートから考えると、一旦血行動態が落ち着いてしまえばこれ以上瘤が起こる理由がありません。よって当科では瘤の治療を行った後(もしくは同時手術で)弓状靭帯の切離など、腹腔動脈自体の追加治療はしない、ということにしています。狭いところは直さなくては、という考え方もありますが、私たちは病気の本態を追求しそれに従って治療を行うことをモットーとしています。

(Miyahara K, et al. Ann Vasc Dis. 2019 Jun 25;12(2))

膵十二指腸動脈瘤の奇妙な原因(図4)
(図4)