検査方法について
閉塞性動脈硬化症や重症虚血肢など、下肢の血流障害によって起こる症状は様々です。患者さんの具体的な症状がどうであるかはもちろん重要ですが、血流障害の程度を客観的に、定量的に(数値として)評価することは治療法を決定する上で重要な因子です。当科では、患者さんに痛みのない非侵襲的な検査をはじめ、様々な検査結果を総合的に判断して治療方針を決定しています。
ABPI (Ankle Brachial Pressure Index: 足関節上腕血圧比)
ABPI(ABI)は下肢虚血の程度を評価する検査方法として最も広く利用されているものです。図のように両腕(上腕)と両足首(足関節)の血圧を測定します。血圧を測定する検査ですので、患者さんに痛みはなく、ベッドに横になっているだけで10分程度で終了します。足関節の血圧を上腕の血圧で割った値がABPIであり、正常値は1.0~1.4です。0.9以下の場合には何らかの虚血があることが示唆されます。しかしながら、糖尿病や透析患者さんなどは動脈の石灰化(動脈硬化)が強いため、実際よりも高い値が出ることが多いため注意が必要です。そのような方にはTBPI (Toe brachial pressure index: 足趾上腕血圧比)を行うことがあります。また、重度の虚血がある場合には値が測定できない場合もあり、他の検査が必要になります。
NIRS (Near-InfraRed Spectoroscopy: 近赤外線分光法)
下肢閉塞性動脈硬化症で多い症状は間欠性跛行(一定距離歩くとふくらはぎなどが痛い、数分休むと良くなる)です。これは歩行運動により筋肉の酸素需要量が増えることに対し、血流量が不足することによって起こります。実際にどのくらいの距離で症状がでるのか、そしてどのくらい休むと症状が改善するのかを測る検査がNIRSです。NIRSは医用近赤外線分光装置とトレッドミル検査を組み合わせて行います(図)。患者さんには両側のふくらはぎにプローブを装着しながら、だんだん早くなったり坂道になったりするベルトコンベアの上を歩いてもらいます。歩行開始後からの筋肉組織内のヘモグロビンの変化を近赤外光を用いてみることで、虚血の重症度や回復時間(recovery time)を測定します。また、NIRSは治療前後で測定することで、治療効果判定にも使うことができます。
SPP (Skin Perfusion Pressure: 皮膚灌流圧測定)
ABPIは足首より先の細かい血管を調べることには向いていません。特に重症虚血肢で手術が必要な患者さんでは、足部のどの部分が、どれほど血流が良くないかを調べる必要があります。TBPIは足趾(足の指)の血流を測るための簡便な検査ですが、足趾に潰瘍がある方や、足趾欠損している方は検査することが困難です。SPPはこのような方にも検査することが可能な非侵襲的検査です。足部や足関節など血流を調べる部位にレーザーセンサーと血圧計のカフを装着します。一度カフを膨らませて血流を遮断した後に、徐々にカフ圧を下げていき、皮膚血流が再開したところがSPPの値になります。レーザー光を用いているので、皮膚表面に近い毛細血管の血流が反映されます。そのため、足が感染していて腫れていたり、むくみが強い場合には正確に測定できない場合があります。SPP値は40 mmHg以上で、潰瘍治癒の可能性が高いと考えられており、当科でも40 mmHg以下の場合にはバイパス手術や血管内治療など手術を検討します。
また、SPPは治療効果判定にも有用です。2018年に当科の山本晃太が発表した当科の成績では、バイパス手術後のSPP値が20mmHg以上増えた症例では、肢切断回避状態での生存率が有意に高いというデータを示しました(下図B)。手術後のSPP値が予後に関連していることを示したのです。
参考
- Yamamoto K, et al. Increase in skin perfusion pressure predicts amputation-free survival after lower extremity bypass surgery for critical limb ischemia. Vascular Medicine 2018; 23(3): 243-249
- 臨床脈管学 日本脈管学会著
協力
東京大学医学部附属病院検査部