下肢静脈瘤に対する治療について
下肢静脈瘤とは?
下肢の表在静脈が太く瘤状に浮き出ているものを言います。血液の逆流を防ぐ静脈の弁(逆流防止弁のようなものです)が正しく閉じなくなり、血液の逆流が起こるのです。そのため静脈血のうっ滞が起こり、足のむくみや痛みや色素沈着、皮膚の潰瘍などの症状がでます(図1)。むくんだ下腿は例えて言えば水浸しの泥地のようなもので、筋肉の酸素が足りなくなり痙攣をおこしたりします。これがこむら返りです。
治療の考え方
弁が壊れて“心臓に血液を戻す”役割ができなくなった表在静脈(大伏在静脈:太ももの内側、小伏在静脈:膝裏の下腿)は、上記の症状をもたらすのみで百害あって一利なし。これを切って引っこ抜く(ストリッピング)、またはレーザーなどで中から焼いてしまう(レーザー焼灼・高周波焼灼)などの手術があります。(表面の静脈はなくても深部静脈が下肢の血液還流を十分に補います) しかし、すべての基本になるのは圧迫療法です。外から圧迫できれば表面の静脈はつぶれて深部の静脈のみが機能しますので症状はなくなります。弾性ストッキングは硬くて履きにくい、という欠点がありますが、最近はどんどん改良されてきています(図2)。
レーザー・高周波焼灼術とストリッピング手術
従来のストリッピング術(伏在静脈にワイヤーを入れて引っこ抜く)と、血管内を焼灼してつぶしてしまう方法が現在行われています(図3)。静脈瘤の手術は基本的には低侵襲なもので、日帰りや2泊3日までの短期の入院で済みます。血管内焼灼術が保険承認されてから、多くの施設で行われてきました。クリニックでの日帰り手術も“手軽に”できるようになりました。では本当に“手軽”なのでしょうか?安全なのでしょうか?
じつはEHIT(イーヒット、と言います。Endovenous Heat-Induced Thrombusのことです)という合併症があります。これは表在静脈を焼灼した時に血栓ができて固まるのですが、その血栓が伸びて深部静脈に顔を出す、もしくは深部静脈血栓症という病態を引き起こし肺塞栓を起こすような合併症です(図4)。私たちはこのEHITが怖いので、手術翌朝にエコーで確認することにしています。また血腫が広がっていないかのチェックや、炎症の状態を見ます。ですので当科では1泊または2泊の入院をお願いしています。100%安全な手術はない、そのためできる限りの手を尽くす、というのが当科の方針とお考えいただければ幸いです。
下肢静脈瘤の種類
そもそも静脈瘤には上記のいわゆる静脈瘤(これは一次性静脈瘤といいます)のほかに、先天性のもの(Klippel-Trenaunay症候群)や、二次性静脈瘤(深部静脈血栓症による深部静脈の閉塞や、動静脈瘻により表在静脈の血流が増加して二次的に表在静脈が拡張したもの)があります。一次性であれば上記の手術をしても問題ありませんが、二次性では深部静脈が使えない代償として静脈瘤になっているだけですので、これをつぶしてしまうと静脈還流がなくなってひどいむくみになってしまいます。手術前に超音波検査で、つぶす表在血管だけではなく深部静脈もチェックしているのです。