東京大学血管外科

脾動脈瘤の治療について

脾動脈瘤とは?

脾動脈瘤はその名の通り、大動脈から分岐して脾臓に血液を送る動脈にできる瘤です。(図1)

珍しい瘤ですが、内臓動脈瘤の中では最多の発生頻度で約60%を占めると報告されています。破裂してしまうことは少ないのですが、破裂してしまうと命に関わります。破裂の危険性が高い瘤に対しては適切に治療を行わなければなりません。

図1

脾動脈瘤の治療

手術を行う大きさとして大きさ(径)が2cm以上、というのがおおよその目安になっていますが、それにはあまり根拠はありません。昔から教科書に書いてあるから、とか、2㎝以下ではあまり破裂したのを見たことがないから、などという理由です。

当科で佐野允哉らが行った70例の検討では、瘤が拡張することの原因になる因子として①門脈圧亢進症、②2㎝以上の径、逆に拡張させない因子として③高度の石灰化(egg shellといいます)があがりました。ですので、2㎝以上の径、という従来の手術適応指針はそれほど間違ってはいない、と考えています。

手術の第一選択はカテーテルを用いた血管内治療で、瘤とその入り口、出口となる血管をコイルで詰めて血流をなくす方法です。しかし、詰めてしまうことによって広範囲に脾臓の血流が失われてしまうことが想定される場合は開腹手術での瘤縫縮やバイパス、場合によっては脾臓の摘出も含めた瘤の切除を行っています。

妊娠との関係

脾動脈瘤は男性に比べて女性は4倍の頻度で発生すると報告されていて、その理由として妊娠との関連が指摘されています。妊娠期間中に分泌される妊娠ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の影響で血管の壁が脆弱になり、これに加えて妊娠期間中の循環血液量の増加や腹圧の上昇が瘤の形成を促すと言われています。瘤の破裂はお腹が大きくなる妊娠後期に多いとのデータがあり、脾動脈瘤を指摘されている方が妊娠を希望される場合は手術が必要です。

門脈圧亢進症

脾臓に送られた血液は肝臓に還っていきます。しかし様々な原因によって肝臓が傷害され、肝硬変と呼ばれる状態となると、肝臓への血流が滞り圧力が高くなることで脾動脈瘤発生の危険性が高まると言われていて、実際に肝臓の移植が必要と判断される方々には脾動脈瘤が多く破裂の危険性も高いというデータがあります。当院では肝移植の患者が多く、そのデータから門脈圧亢進症が瘤拡張に関与していることがわかっています。

Egg Shell(卵の殻)という特殊な因子

瘤の壁が高度に石灰化していると、破裂しにくいのではないか、と考えがちです。一般的に動脈瘤では部分的に石灰化していることが多く、やわらかいところや硬いところとの境目が主に破裂するためかそれほど石灰化は破裂防御に役立っていない、といえます。脾動脈瘤ではほぼ全周性に石灰化していることがよくあり、これをEgg Shell(卵の殻)と呼んでいます。(図2)

我々の解析では、Egg shellは2㎝の径や門脈圧亢進症などの危険因子と相殺する因子だということがわかりました。

図2

脾動脈の曲がり具合と瘤のできる場所

脾動脈はぐねぐねと曲がった形状をしていることが多いです。それも今まではあくまで“そういう印象がある”という程度で言われていました。当科の木村賢らは、脾動脈の形状を三次元解析して屈曲を数値化しました。すなわち、“ぐねぐね”の程度を数値に直したのです。(図3) すると、普通の人(ここでは一般の癌患者さんを例にとりました)にくらべて脾動脈瘤の患者さんの脾動脈は、より“ぐねぐね”していたのです。また女性でその傾向が強いこともわかりました。(Kimura M, et al. Asian Cardiovasc Thorac Ann 2018)

図3

脾動脈瘤はユニークな動脈瘤です

 このように脾動脈瘤は、ちょっとユニークな特徴を有しています。単純に2㎝だから手術ね、ということではなく、その他上記に挙げたさまざまな要素を考慮して治療を行わなくてはなりません