東京大学血管外科

下肢閉塞性 動脈硬化症に対する治療について

下肢の血流障害で起こること

下肢の血流障害は主に動脈硬化によっておこります。症状は冷感にはじまり、間欠性跛行(歩行などの運動時にふくらはぎなどが痛くなり、休むと痛みが治まる)、安静時痛(じっとしていても足が痛い)、潰瘍・壊死を呈する、の順に重症となります(図1)。動脈硬化で血管が狭くなって(または詰まって)虚血になった場合は、なんらかの治療をしなくては最終的に足の切断という最悪のシナリオが待っています。潰瘍や壊死が起こると、皮膚のバリアがなくなるので感染しやすくなります。細菌は容易に体内に入り、敗血症になると生命の危機にもなりえます。そして糖尿病や喫煙などの因子があると重症化しやすくなります(図1右)。

下肢の血流障害で起こること(図1)
(図1)

この病気を知ることの重要性。予後はどうなの?

足に動脈硬化があるということは、脳や心臓の血管にも動脈硬化があるということです。実際足の虚血の患者さんの約半分は心臓の血管に病変がありますし、4分の1に脳の動脈病変があります(REACHレジストリーより)。よってこの患者群は予後がとても悪いのです。

図2を見てください。重症虚血患者の生存率は5年で40%です(TASCIIというガイドラインから)。胃や大腸の進行癌よりはるかに悪いのです。ですが癌と違って、死に至る原因は心筋梗塞・脳梗塞・敗血症・肺炎、と多彩です。癌のように“敵”がみえにくいのです。患者さんの病気に対する認識がはっきりしにくいことで、虚血の進行に気づくのが遅れることが問題となっています。当科では通常ではバイパスは不可能と言われているような症例を多く手術してきました。それによってこのグラフよりも良い生存率を上げてきたのです。これからもバイパスによって患者さんの予後改善に寄与していきたいと思っています。

さらに図2の右の円グラフと見てください。壊死した足(下腿)を切断してしまうとどうでしょうか。2年後には3割の患者さんが亡くなっているのです。切断によって更に活動性が失われ、筋力低下や感染に弱くなるなどの影響がその理由として考えられます。よって、私たち血管外科医はバイパス手術などを武器として「足を残す、少なくともかかとを残す」ことに血道をあげているのです。

この病気を知ることの重要性。予後はどうなの?(図2)
(図2)

治療法は?

当科に来られる患者さんは、図1のⅢ、Ⅳの状態の方がほとんどです。治療方針は図3のようになっています。感染を抑え、痛みをとり、手術に向けて準備をします。当科ではバイパス手術の成績が良好で、低い死亡率、高いバイパス開存率を誇ってきました。東大血管外科の末梢吻合法は血管外科医の中でも有名で、学会主催のバイパスのワークショップでもモデル手技として紹介されています。

最近は血管内治療が盛んになってきておりますが、「狭いからバルーンやステントで拡げる」という考え方は非常に危険です。血管内治療は一見低侵襲でよさそうに見えますが、血管内膜を傷つけることで血栓で早々に詰まってしまうことが非常によくあります。そのため何度も治療を行い、最後には打つ手がなくなって切断という患者さんもいます。そういう患者さんが当科に来ると、すでにバイパスに使える動脈はつぶれていることも稀ではありません。バイパスは開存率が高く、また詰まっても元の状態に戻るだけですので次の一手が打てます。血管内治療はよくよく治療戦略を練って、バイパス第一、そしてバイパスができない場合や補助的に血管内治療を使う、というのが賢明なやり方だと考えています。今では血管内治療のデバイス(道具)はどんどん進化していますので、私たちも武器が増えたことを喜んでいますが、武器も使い様によっては悪影響を与えうることを肝に銘じておかなくてはなりません。

治療法は?(図3)
(図3)

治療の実際

バイパスなどの治療で血流がよくなると、足のケアをすることでみるみる創がよくなってくるのがわかります。高齢女性の1例です。他院で足の切断が必要として当院に駆け込んでこられた患者さんが、手術後にみるみる創が治癒していく様子がうかがえます(図4)。この患者さんは今ではグランドゴルフや旅行など人生をエンジョイされています。これは1例にすぎませんし、ここまですっきりとうまくいく症例ばかりではありません。大事なのは、患者さんのフットケアの自覚看護師さんの指導定期的な血管外科医による外来でのチェック糖尿病や透析高脂血症などに対する専門医による原病の管理、これらがあいまって良好な足の(しいては命の)予後が期待できるのです。

治療の実際(図4)
(図4)